家族が。家が。大好きな町が。
多くを失った人がいる。本当は辛くて辛くて泣きたいはずなのに、ずっと誰かのために動いている人がいる。そして、何もできずに悔しくて、自分を責める人がいる。
先の見えない不安な毎日。寒くて寝れず、朝が待ち遠しい長い夜。
この状況で僕は何かを残さなければ。タイトルには「フォトグラファーとして」とつけてはみたが、これは能登に生きる一人の人間として、地震発生から今に至るまでの記録にしたい。
元日に能登半島を襲った大地震
2024年1月1日16時10分。きっと忘れもしないだろう。なぜなら掛け時計の針がその時間で止まってしまっていたからだ。
僕は石川県羽咋市の妙成寺で「寒水荒行」という正月行事を撮影した後だった。震度5強を観測した羽咋市でも立っていられないほど揺れたので、震度6強の奥能登はさらに危険だと感じ、一旦妻の実家のある金沢市内へ避難した。地震発生時、実家のある輪島市門前町には両親と帰省中の姉がいたのだが、全く連絡が繋がらない。震度5強の余震が続き、身動きもとれない。この先いったいどうなるのだろうと不安な夜を過ごした。
地震発生後の輪島市門前町黒島の様子
一夜明け、地震の被害が少しずつ明らかになっていった。珠洲の家屋倒壊や輪島朝市の火災など衝撃的なニュースが流れ、本当にこれは現実なのかと何度も目を疑った。家族とは連絡がつかないまま、とにかく安否を確認しなければと思い、午前中に門前町へ向かった。
のと里山海道の奥能登方面が通行止めとなり、県道など下道を通って移動。ガソリンスタンドに並ぶ車の渋滞や、道路の大きな陥没や亀裂による通行止め・迂回などがあり、通常よりもかなり時間がかかった。なんとかして門前町に着くと、1月2日に母の無事を確認、1月4日に父と姉の無事を確認することができた。
地震で孤立した集落・皆月
僕の実家のある皆月地区（七浦）というのは、ニュースで何度か出ているように、今回の地震で孤立してしまった集落だ。黒い屋根瓦の家々が連なり、昔ながらの漁村の雰囲気で、まさに「能登らしさ」を感じる場所。土屋太鳳さん主演のNHK連続テレビ小説「まれ」のロケ地の一つにもなった。
地震発生前の皆月（2016年撮影）
地震が発生して以来、門前町では電話は繋がらず、ネットも通じなくなった（1月10日復旧）。門前町の中心部から皆月へ行く道路は、地割れや土砂崩れが発生し、寸断状態。他の被災した地域と同様に電気・水道・ガスは止まったことに加え、正直ただでさえ僻地にあることもあり、完全に孤立してしまっていた。
車で無理をして、皆月へ往来されている方もいたが、何かあった場合のリスクを考えて、僕は山道を歩いて越えることにした。門前町の街中からは約10km。歩いて行くことなんて考えたこともなかったけど片道約2時間ちょっとかけて皆月へ向かった。
陥没した道路に転落した車
道路の地割れで通行が危険
動物の雪の上の足跡
おさよトンネル付近の倒木
雨や雪で大規模な土砂崩れが発生
山を越えて見えた皆月の景色。地盤が大きく隆起したことにより、海だった場所が砂浜や岩場になってしまっていた。写真だけ見ると潮の干満では？と言う方もいるけど、そんなことはない。こんな場所に岩場などなかったのだから。
隆起で見慣れた景色が一変
広範囲にわたって砂浜・岩場に
最大で約4m隆起したとも
こんなことがあっても、皆月の海は悔しいくらいに穏やかだった。皆月の人たちは全員命は無事で、今は主に2つの避難所に集まっているようだ。高齢者が多い中、地元青年会の方々も避難所に残っていてとても頼もしい。地域の方々が助け合い、修復を進めていた。
半壊してしまった家
ほとんどの墓石が倒れてしまっていた
地震発生時を想像するとゾッとする
黒い屋根瓦が落下した家が多数あった
できることなら今すぐにでも孤立集落から全員がどこかに避難することが望ましい。ただ人それぞれ想いがあって、防犯上のことも考えると、それもなかなか簡単ではない。地震発生時から風呂にも入れていないし、車中泊を続けている人もいる。免疫力の低下が懸念され、体調や衛生面も心配だ。見通しの立たない避難生活を続けていると、相当なストレスと疲労もたまっているだろう。僕はなんとか家族を説得して一旦安全な場所へ避難させたいと思っている。（防犯上、僕はカメラを構えながら不審な人がいないか定期的に回る予定）
SOSの言葉に心が痛む
被災した輪島市門前町の様子
皆月へ歩いて行く日は、前日に車中泊をして、翌朝に辺りが明るくなってから出発という形にしているが、門前町のその他の地域も気になったので「總持寺通り」と「黒島」にも足を運んだ。どちらも門前町にとって大切な観光スポットであり、2007年能登半島地震で大きな被害を受けた場所。約17年を経て、どうしてまたこのような試練を与えるのだろうと辛い気持ちになる。
總持寺通り
以前事務所用に借りていた家屋も倒壊
總持寺通りでは以前事務所としていた家があったので気になっていた。大きな横揺れだったため、相当ぐらついたのだろう。家は傾き、1階部分は潰れてしまっていて言葉にならなかった。
全壊しているところを見ると言葉にならない
柱が崩れているので今後の余震が心配
門前高校付近の被害も大きかった
總持寺通りは復旧に時間がかかりそう
黒島
黒島でも全壊している家屋があった
能登瓦とも呼ばれる黒い屋根瓦
重要伝統的建造物群保存地区の黒島地区
旧角海家住宅は全壊
黒島も復興にはかなりの時間を要するはず
これからのこと
僕は10年前に能登へ移住して独立開業した。自分が選んだ道とはいえ、地震の影響で仕事がなくなり、能登の祭りもなくなり、実家や家族、地域がどうなれば復興となるのか、正直お先は真っ暗。僕は仕事の都合で、能登で一時的に借りていたアパートもあるので、ひとまずそこに退避しながら皆月へ行き来することになると思う。本格的な仕事の復帰は2月以降になると思うが、それまでにどこを拠点にするか検討して、準備していく予定だ。
最後に。地震が発生して以来、僕が能登（輪島市）を拠点と知っている方々から本当にたくさんのメッセージをいただき、皆様からの温かいお言葉はとても励みになった。今は地震の被災に心を寄せてくださるだけでも本当に有り難い。自衛隊の方々は本当に頼りになるし、インフラ復旧のために多くの人が懸命に毎日を過ごしている。もし被災した能登半島のために「力になりたい」とお気持ちがあれば、ボランティアの登録や情報発信などでもお力いただけると嬉しい。また元気な姿で皆様にお会いできるように、僕も今自分にできることを頑張っていきたい。
これからの人生、何一つ諦めていないし、むしろ反骨精神で這い上がっていこうと強く思っている。少し時間はかかると思うが、体勢を立て直してまた地域の力になれるように尽力したい。
再会した母と愛犬
