能登半島地震から二度目の夏が過ぎ、あの日からもうすぐ二年になろうとしている。とにかく暑かった夏をなんとか乗り越え、今年予定してい能登の祭りの撮影を無事に終えられたことで、ようやく少しほっとしている。
祭りに参加していた人たちは、今年どんな思いを抱えていたのだろう。祭りの衣装を着た若者が仮設住宅から出てきて、祭りが終わるとまたそこへ戻っていく姿を見ると、目に映る笑顔とは裏腹に、心の中にはきっといろいろな感情が渦巻いているのだろうと感じた。置かれている状況や環境を思うと、この場所には言葉にできない感情がたくさん入り混じっている。
僕たちはいま「復興の過程」を見つめているのだと、改めて思う。今年の祭りを見て、どんな言葉を残せばいいのだろう。そして何を伝えていくべきだろう。今回のJournalでは、150枚の写真とともに、今年の能登の祭りを振り返りたいと思う。
「能登のいま」を撮り続けたい
能登では、倒壊した家屋の公費解体が進み(※11月末時点で約98%完了 )、更地が目立つようになってきた。復興に向けて、ひとつのフェーズが確かに前へ進んだと感じる。主要道路も応急措置の状態から、よりしっかりとした舗装になった箇所が増えてきた。また、研修・視察など、学びを目的とした大型バスが能登に入る姿も多く目にするようになり、営業を再開する宿泊施設が増えれば、さらに多くの人が訪れやすくなり、復興への動きもより活発になっていくのだろう。
昨年1月から「能登半島地震の復興の歩みの記録」を撮り続けているが、写真にも少しずつ変化が表れ始めている。今は自分自身の“残したい”という思いを軸に撮っているので、能登の現状に関心のある方にはぜひ見てもらえたら嬉しい。

▶︎The Road to Recovery|2024 Noto Peninsula Earthquake
https://notopeninsula.com/
そして今年、能登で開催された祭りの数は、昨年比でおよそ倍近くまで戻ってきたという。規模を縮小しながら、形を変えながら、それでも「灯を消さない」ために多くの地域が動き出している。
笑顔と熱狂に溢れていた能登の夏
今年の夏を振り返ると、まずはその「暑さ」が強烈に頭に残る。毎年暑い暑いと言いながら、今年は”どう撮るか”よりも”どう暑さを乗り切るか”ということの方に意識が向くほどだった。暑さ対策は万全にしているつもりでも、連日続く祭りでは体力の消耗や回復に、いつも以上に気を配っていた。
そんな中、石崎奉燈祭(七尾市)ではボランティアの方々が祭りの合間で給水支援を行っていた。奉燈の担ぎ手だけでなく、関係者や見物客にも水を配り、暑さにふらつきそうになったとき本当に救われた。また、首都圏などから担ぎ手の助っ人として参加する人たちも多く、人手が不足する地域にとっては大きな力になっていたはずだ。祭りの在り方を考えさせられる今、僕自身、こうして祭りを撮り続けられることは当たり前ではなく、そうした多くの人の思いと行動に支えられているからだと、改めて実感した。
▪️あばれ祭(石川県能登町宇出津/2025年7月4・5日)
言わずと知れた能登を代表する祭り。キリコ祭りシーズンの幕開けとなる祭りだけに、毎年あばれ祭が近づくと気持ちが昂って、待ち切れなくなる。今年は2年ぶりに全40基のキリコが揃い、たくさんの笑顔を見ることができた。
松明の火が能登の夜を焦がすあの瞬間はやっぱり特別で、まるで異空間にいるような感覚になる。火の粉が舞う中でのキリコの乱舞や神輿を叩きつける姿は、色々な想いが一瞬に込められているような気がして、胸が熱くなる場面が何度もあった。
あばれ祭@石川県能登町宇出津
▪️飯田燈籠山祭り(石川県珠洲市飯田町/2025年7月20・21日)
高さ16mの燈籠山と総漆塗りの山車が町内を運行する燈籠山祭り。燈籠山の迫力はもちろん、個人的にはこの祭り独特の木遣り歌(キャーラゲ)や掛け声がたまらなく好きで、毎年楽しみにしている祭りの一つ。特に笛の音色は美しく、どこか懐かしさを感じるのは、その響きがヒグラシの鳴き声と似た心地よさを持っているからかもしれない。幼い頃、能登の祖父母の家へお盆に帰省したときに聞いていた、あの夕暮れの音がふと重なる瞬間がある。地域の皆さんが心から祭りを楽しんでいるのが伝わってきて、今年もその輪の中にいられたことが本当に嬉しかった。
飯田燈籠山祭り@石川県珠洲市飯田町
▪️石崎奉燈祭(石川県七尾市石崎町/2025年8月1・2日)
能登で最も勇壮といわれるキリコ祭り。高さ10mを超える奉燈を約100人によって担ぎ上げられ、漁師町を練り歩く。広場で行われる奉燈乱舞の迫力は凄まじく、観衆を一気に熱狂の渦へと引き込む。夏祭りシーズンでも個人的に一番暑い日だと思っているので、この日は体力勝負。無事撮り終えたときの達成感は感慨深いものがあった。昨年は形を変えての開催だったが、今年は6基の奉燈が勢揃い。祭りの熱気の中にいると、撮りながらも胸が高鳴り、能登の人たちの力強さを感じた。
石崎奉燈祭@石川県七尾市石崎町
▪️西海祭り(石川県志賀町/2025年8月14日)
浴衣姿の女性がキリコを担ぐことでも知られている西海祭り。祭り唄で盛り立てながらキリコがいく姿は印象的で、海風と西陽が混ざり合う夕暮れの時間は特別だ。キリコや神輿の乱舞の迫力は圧巻で、西海は今年も熱気に包まれていた。
「石川県の祭りお助け隊」として参加されていた女性の担ぎ手もいて、例年以上に熱量を感じた。地元の人と外から来た人が自然に盛り上がり、同じ輪の中で笑い合う光景が心に残ったので、ぜひ来年以降も参加してほしい。
西海祭り@石川県志賀町
▪️沖波大漁祭り(石川県穴水町沖波/2025年8月15日)
海の安全と大漁を祈願し、キリコを海へ担ぎ込むという、能登の中でもとりわけ豪快な祭り。実はこの日は僕も海に入って撮影していたのだが、能登の自然を感じながら祭りを楽しむ爽快さもあって、とても楽しかった。
沖波大漁祭り@石川県穴水町沖波
▪️黒島天領祭(石川県輪島市門前町/2025年8月17・18日)
黒瓦の家々が連なる重伝建の町並みで行われる、伝統的な曳山祭。地震で倒壊した家も多い中、声を張り上げる人たちの姿が胸を打つ。学生ボランティアも加わり、地域が一体となる空気が町全体を明るくしているように感じた。地震から前へ進もうとする力が祭りの随所にあふれていて、僕自身がとても勇気づけられた。
黒島天領祭@石川県輪島市門前町
▪️福浦祭り(石川県志賀町/2025年8月23日)
能登の奇祭として知られる福浦祭り。この祭りで名物となっている「仮装行列」には全国から支援者が参加し、福浦の港町は賑わいをみせていた。この地区には知り合いも多く、久しぶりに元気な姿を見ることができて楽しかった。変わらずこの祭りが続いていることが、何より嬉しい。
福浦祭り@石川県志賀町
▪️重蔵神社夏季大祭(石川県輪島市河井町/2025年8月23日)
本来は4日間続く輪島大祭。今年も重蔵神社では規模を変えての開催だったが、若者たちの勢いは凄まじく、境内は熱気に満ちていた。祭りは、能登にとって復興への希望の灯なのだと、改めて感じた日だった。
重蔵神社夏季大祭@石川県輪島市河井町
▪️冨木八朔祭礼(石川県志賀町/2025年8月24日)
7月から続いてきたキリコ祭りも折り返し。太鼓や鉦の独特のリズムが響く中で見る神輿の乱舞は迫力があり、とても楽しかった。この時期は他の祭りと日程が重なることが多く、冨木八朔祭礼は2日目のみの撮影となったが、今年は増穂浦海岸に神輿が集結する「浜回り」を見ることができ、富来祭りならではの壮観な場面に出会えた。
冨木八朔祭礼@石川県志賀町
▪️蛸島キリコ祭り(石川県珠洲市蛸島町/2025年9月11日)
昨年石川テレビさんで放送していただいていた特別番組(おらっちゃの祭り )で、蛸島キリコ祭りに密着した内容があったこともあり、今年は地元の方にたくさん声をかけていただいた。蛸島の人たちにとって祭りが“生きる力”そのものなのだと感じるほど、その思いの深さが伝わってくる。クライマックスのお宮でのキリコの乱舞は、今年も感動的だった。
蛸島キリコ祭り@石川県珠洲市蛸島町
▪️正院キリコ祭り(石川県珠洲市正院町/2025年9月14・15日)
正院も能登半島地震で大きな被害を受けた地域の一つで、この場所を通るたびに、昨年1月に目にした光景がよみがえる。だからこそ、今年もこうして多くの人が集まり、笑顔が広がる祭りの姿を見ると、胸の奥から熱いものが込み上げてくる。奴振りも気合いが入っていて、素晴らしかった。
正院キリコ祭り@石川県珠洲市正院町
▪️上戸の秋祭り(石川県珠洲市上戸町/2025年9月14日)
今年は曳山1台が上戸の町内を練り回り、化粧をした子どもたちの木遣り歌も披露された。途中、東京から来ていたチンドン屋さんが急遽加わり、祭りをさらに盛り上げてくれた。地元の方たちの表情には笑顔が多く、地域に受け継がれてきた祭りの温かさを改めて感じる時間だった。
上戸の秋祭り@石川県珠洲市上戸町
▪️野々江の秋祭り(石川県珠洲市野々江町/2025年9月25日)
能登半島地震後、野々江の大通り沿いに並んでいた倒壊した家屋は公費解体が進み、更地が目立つようになっていた。雨が長く降り続いた一日だったが、カメラに向かって見せてくれた満面の笑みが強く心に残っている。濡れながらキリコを担ぐ姿や声を張り上げる表情には、力強さを感じた。
野々江の秋祭り@石川県珠洲市野々江町
▪️馬緤の秋祭り(石川県珠洲市馬緤町/2025年10月13日)
7月のあばれ祭から続いてきた能登のキリコ祭り。その約3か月にわたる長い季節の締めくくりとなるのが、馬緤の秋祭りだ。夏の熱気が落ち着き、少し肌寒くなってきた中で、地域の人たちの熱量はむしろ増していくように感じた。今年も予定していた祭りを最後まで撮り切ることができて、素直に嬉しかった。
馬緤の秋祭り@石川県珠洲市馬緤町
ともしびを紡いでいく
祭りを通じて能登を見つめ、心に残っていたのは “美しさ” と “儚さ” だった。「どうして能登の祭りが好きなの?」と聞かれるたびに、うまく言葉にできない自分がいたが、撮り続けてきた時間の中で、小さなコミュニティの中にある人間味を、一つひとつ実感できたからだと思う。能登出身ではない僕自身も、写真を通して少しずつ祭りの一部になれたような気がしている。溢れる笑顔に何度も出会い、辛いことがあっても乗り越える力強さを何度も見てきた。
今、動き出している祭りは、どれもが小さな “希望の灯” だ。その灯がつながっていくことで、この先の復興へと向かう未来がきっと開けていく。だからこそ、ここにある小さな灯を、決して絶やすことのないように、大切に紡いでいきたい。








































































































































