今年ほど祭りを撮る悦びを感じた年はなかった。大切にしたかったのは自尊心。「今」という瞬間に全てを注ぎ込むような感覚は、何ものにも代えがたい。祭りの写真や映像を撮りながら、自分の居場所を探しているようにも感じていた。

ご存知のように、元日に石川県能登地方を震源とする大地震が発生。しばらくの間、生活がままならず、精神的にも仕事や撮影どころではない日々が続いていた。1月の時点で、春先まで予定していた祭りの撮影は、関係者のご理解をいただき、一旦すべてキャンセルすることに。優先すべきことを考え、一度祭りの写真をやめることも考えていた。これからどうなっていくのか、不安な気持ちを抱えたまま、目の前の祭りを全力で撮影できるのか。そんな自分への問いかけが常にあったからだ。

祭りの撮影を再開したのは、2月末頃のことだった。「御陣乗太鼓」など、被災した方々が「能登の伝統芸能」の再起に奮闘している姿を知り、それが大きなきっかけとなった。生活の再建を考える中で、少しずつ生業を取り戻し、今後の意思表示として「ファイティングポーズ」をとる必要性も感じていた。

今回のJournalでは、祭りの写真を通して、改めてこの一年を振り返りたいと思う。

能登の祭りで見た一筋の希望

まずは能登の祭りの話から。

僕が能登に移り住んだのは10年前のこと。今では毎年のカレンダーは能登の祭りを中心に埋め尽くされている。気付けば僕にとって祭りはとても身近な存在となり、生活の一部、そして生き甲斐となっていた。

地震発生後に能登半島をまわったとき、今年の夏に能登で祭りを見ることができるなんて想像もしていなかった。避難などで人がいなくなり、倒壊した家屋だけが残った集落もあった。道路には大きな亀裂が入り、神輿やキリコが巡行できる状態ではなかった。それでも、あばれ祭、石崎奉燈祭、蛸島キリコ祭りなど、規模を縮小しながらも開催にこぎつけた祭りがあった。地域の人々が意見を交わし、多くの支援や思いを繋ぎながら、「絶対に開催は無理だろう」と思われていた状況を覆したのだ。

あばれ祭@石川県能登町

能登の祭りには、小さな集落でも一人一人に役割があり、町を一度離れた人でさえ祭りの日には戻ってくるほどの熱い思いがある。祭りは「人」と「人」、「地域」と「人」を繋ぐものであり、能登に生きる人々にとってかけがえのない、大切な存在だと強く感じている。地震の影響で、今年の祭りがどのような形で開催されるのか不透明な部分も多かったが、蓋を開けてみると、地震のことを一時忘れられるかのように多くの人々が集まり、笑顔が溢れていた。

蛸島キリコ祭り@石川県珠洲市

輪島大祭@石川県輪島市

この2024年に祭りを開催した意義や価値は、未来から逆算して考えたときにきっと見えてくると思っている。祭りの写真や映像を撮りながら、たくさんの勇気をもらったし、能登の人たちにとって「祭り」というものが一筋の希望なのだと改めて感じた。

全国の祭りから復興への願い

今年も北陸を中心に、関西や東海、九州の祭りを撮りに行ったが、その中で地域の方々の挨拶や会話の中に能登半島への想いを感じる言葉が度々あった。また、寄付を募っている祭りも数多く見受けられた。おそらく能登の人々が知らないところで、そんな心遣いがなされているのだろうと思うと、感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。

唐津くんち@佐賀県唐津市

地元の方々との雑談の中で「どこから来たの?」と聞かれ、「能登です。輪島です」と答えると、自然と地震の話題になることが多い。たくさんの人が能登に思い出を持ち、今の能登がどうなっているのかを知りたいと思っているのだ。被災地の記録を続けている僕には、能登の現実を伝える役割があると感じている。そして、心を寄せてくださった人々の思いを一つ一つ大切にしながら、祭りの写真と共にその記憶を刻み続けていきたいと思っている。

チャリティーよさこい@石川県小松市

祭り写真で振り返る一年

祭りを撮ることができるのは、決して当たり前のことではない。そう実感した一年だった。コロナ禍のときも同じだったし、能登半島地震のような自然災害の影響を受けた今年もまた同じだ。経験上、撮り続けることの難しさを痛感しているからこそ、今年は特に一瞬一瞬を「噛み締める」ように撮っていた。もちろん、噛み締めたからといって劇的に良い写真が撮れるわけではないし、以前のように「派手な写真を撮りたい」という気持ちも、それほど強くはなくなっている。それでも、祭りを感じ取り、その空気を読みながら、僕なりに一つ一つと向き合えたという自負がある。

粟崎八幡神社秋祭り@石川県金沢市

今回は、今年の振り返りとして写真をまとめてみたが、初めて撮影した祭りの数は25を超えていた。これまでも多くの祭りを撮ってきたつもりではあるが、まだ見たことのない祭りが数えきれないほどあると思うと、これから先の楽しみは尽きない。ここでは、今年撮影した中から特に印象的だった祭りを紹介したいと思う。

寒水荒行@石川県羽咋市

勝山左義長まつり@福井県勝山市

小川寺の獅子舞(春祭)@富山県魚津市

金山谷の獅子舞@富山県魚津市

飛騨生きびな祭@岐阜県高山市

犬山祭@愛知県犬山市

糸魚川けんか祭り@新潟県糸魚川市

天津神社舞楽@新潟県糸魚川市

美濃まつり@岐阜県美濃市

長浜曳山まつり@滋賀県長浜市

高山祭@岐阜県高山市

飛騨古川祭@岐阜県飛騨市

五箇山春祭り@富山県南砺市

福光春季例大祭@富山県南砺市

飛騨神岡祭@岐阜県飛騨市

酒とり祭り@富山県小矢部市

出町子供歌舞伎曳山祭@富山県砺波市

高岡御車山祭@富山県高岡市

福野夜高祭@富山県南砺市

越中八尾曳山祭@富山県富山市

三日曽根横町の獅子舞@富山県射水市

美川おかえり祭り@石川県白山市

石動天神獅子舞祭り@富山県小矢部市

金沢百万石まつり@石川県金沢市

津沢夜高あんどん祭@富山県小矢部市

和倉温泉元気フェスタIN屋台村@石川県七尾市

となみ夜高まつり@富山県砺波市

御印祭@富山県高岡市

地蔵町の獅子舞@富山県氷見市

あばれ祭@石川県能登町

博多祇園山笠@福岡県福岡市

虫送り@石川県白山市

天神講@石川県加賀市

柿木畠水掛神輿@石川県金沢市

大野日吉神社例大祭@石川県金沢市

金石夏まつり@石川県金沢市

YOSAKOIソーラン日本海 百万石会場@石川県金沢市

輪島大祭@石川県輪島市

冨木八朔祭礼@石川県志賀町

福井フェニックスまつり@福井県福井市

おわら風の盆@富山県富山市

千里浜まつり@石川県羽咋市

粟崎八幡神社秋祭り@石川県金沢市

蛸島キリコ祭り(早船狂言)@石川県珠洲市

富山まつり@富山県富山市

五箇山麦屋まつり@富山県南砺市

唐戸山神事相撲@石川県羽咋市

こきりこ祭り@富山県南砺市

飛騨古川きつね火まつり@岐阜県飛騨市

ほうらい祭り@石川県白山市

六渡寺の獅子舞@富山県射水市

小川寺の獅子舞(秋祭)@富山県魚津市

大門曳山まつり@富山県射水市

慈光院の火渡り法要@富山県小矢部市

YOSAKOIソーラン日本海 本祭@石川県宝達志水町

能登よさこいふるさと祭り@石川県七尾市

ハロウィンよさこい@富山県魚津市

唐津くんち@佐賀県唐津市

庄川ゆずまつり@富山県砺波市

これでもか!太鼓@石川県志賀町

国泰寺法燈忌@富山県高岡市

アエノコト@石川県能登町

池ノ上みそぎ祭り@岐阜県岐阜市

遠山の霜月祭り@長野県飯田市

長松寺どんき@愛知県豊川市

YOSAKOIソーラン日本海トーナメント大会@石川県小松市

祭りとともに生きていく

今年に入ってInstagram(@tsukinoto)での投稿方法を少し変えてみたところ、結果的に想像以上の反響があった。僕のような地方を拠点とするフォトグラファーが活動の場を広げていくには、どんな写真を撮り、SNSでどうアウトプットするか。その一貫性と継続性は非常に重要であると改めて実感した。

今や地域の祭りの団体・チームが個別にSNSアカウントを持つ時代になり、祭りの撮影依頼の窓口も変化してきている。以前は自治体の観光課や観光協会、神社やお寺からの依頼が主だったが、近年ではSNSのDMを通じて直接依頼をいただくことが圧倒的に増えた。

個人的には、祭りや神事の撮影はまず地元の写真家やカメラマンに依頼するのが理想だと思うが、もし周囲に祭り撮影を得意とする方がいなければ、ぜひ僕にご連絡いただければ嬉しい。

おわら風の盆@富山県富山市

祭りを撮る悦びを感じながら、なんとか次へ繋がる写真活動ができた一年だった。「日本の祭り」を撮り続ける中で、日本の伝統文化の奥深さを改めて感じるとともに、新しい挑戦として海外の祭りを撮影する計画も始めている。また、個人プロジェクト「マツリトライブ」の準備も進めており、連載や写真展示などを通じて活動の幅をさらに広げていきたい。

今年一年、本当に大変な思いもしたし、たくさん悩むこともあったが、支えてくださった方々への感謝の気持ちを忘れずに、また来年も精進していければと思う。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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