日本が世界に誇る「伝統工芸」。

僕が活動拠点にしている石川県輪島市には古くから漆文化が根づいていて、「輪島塗」は日本漆器の最高峰と言われている。輪島の魅力を発信する上で欠かせない伝統であり、洗練された職人の技法や品質の高さには多くの方が魅了されているだろう。

輪島塗の最大の特色は、塗り上げまでの工程がとても多いこと。製造過程の分業化が進んでいて、「木地師」、「塗師」、「沈金師・蒔絵師」など多彩な専門の職人たちの手によって完成されている。その工程は、なんと124工程。完成までには数ヶ月から1年の時間を要している。

今回、輪島塗の蒔絵職人・田崎昭一郎さんの工房へお邪魔した。昭和6年生まれで15のときに輪島塗の世界に入った大ベテランだ。撮影することが決まってから、僕のような若輩者が田崎さんを撮らせていただくことの意味をずっと考えていた。

輪島塗の職人さんを撮らせていただく機会はよくあるのだけど、その度にフォトグラファーの醍醐味を感じる。違った人生を歩みながら、そして違う時代を生きながらも、こうして関わることができたことに。

田崎さんが行う蒔絵とは、輪島塗などの漆器に施される加飾の技法のひとつ。漆器の模様上に金粉をまいて絵を表現する。優雅な輪島塗をつくる上で、非常に重要な工程だ。

撮影を通じて伝統工芸の技術を目の当たりにし、輪島塗の見方はまた少し変わった。全盛の時代に比べると正直伝統工芸は売れなくなってきたといわれている。それでも輪島の大切な資源は、こうして職人さんに支えられているのだと感じた。

写真を通して地域との関わり方を模索している自分にとって、伝統文化を撮ることはひとつの道。職人さんを撮らせていただく機会をもっと増やしていきたい。

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